思いがけない二つが掛け合わされたとき、誰も予期していなかった新しい世界が立ち現われてくることがあります。「笑い」と「教育」も、そんな創造的な出会いの一つでした。
「笑い」×「教育」=「笑育(わらいく)」は、漫才作りをつうじてコミュニケーション力、発想力、プレゼン力、論理的思考力など、これからの時代を生き抜くうえで求められる力を培うことを目指した新しい教育プログラムです。私は松竹芸能の依頼を受け、2015年より本プログラムの監修に携わることになりました。
漫才作りをつうじて「笑育」の開発にあたっては、松竹芸能所属のタレント(お笑い芸人、落語家、アナウンサー、俳優)、34組計54人にインタビューを行い、時間をかけてプログラムを作り上げてきました。
「笑育」の特徴はプロのお笑い芸人が講師を務める点にあり、受講者はお笑い芸人から直接「笑い」の基礎を学びます。と言っても、「笑い」に関する小手先のテクニックを学ぶことが目的ではありません。「笑い」を追求していくと、世界と向き合う自分のあり方そのものが問われてきます。「笑育」は「笑い」を生み出すうえで求められる根本的な姿勢・態度を育むことを大切にしています。
漫才を作り上げるには
・価値観の異なる相手と価値観の異なる他者と協働で作品を作り上げること
・自分自身を深く知り、個性を十分に発揮すること
・観客に合わせて伝え方を工夫すること
・言葉を洗練させ、限られた時間内におさめること
など、様々な課題が内在しています。
漫才づくりの際に求められる態度・技能を身に付けてゆくと、知らず知らずのうちに現代社会で求められている諸能力が身についてしまうのです。「笑育」をつうじて、楽しみながらこれからの時代を生き抜くための力を磨いてゆきましょう。
井藤 元
井藤元(いとう・げん)プロフィール
1980年生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。現在、東京理科大学教育支援機構教職教育センター准教授。「笑育」監修。著書に『シュタイナー「自由」への遍歴―ゲーテ・シラー・ニーチェとの邂逅』(京都大学学術出版会)、『マンガでやさしくわかるシュタイナー教育』(日本能率協会マネジメントセンター)、『笑育-「笑い」で育む21世紀型能力』(監修、毎日新聞出版)、『ワークで学ぶ教育学』『ワークで学ぶ道徳教育』『ワークで学ぶ教職概論』(編著、ナカニシヤ出版)などがある。